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2005年08月05日 亡国のイージス
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「未来は渡さない」
え・・・・・?告げられた言葉が頭の中で繋がらず 私はしばらく放心状態に陥った。 その状態は言葉同士が繋がりを持ち文章になり 意味を成した後にも継続した。 ・・・・・・奥さんは進行性のガン、ボールマンW型です。 私は新聞社に勤務しており医療問題を担当したこともある。 よって医師が告げた言葉の意味は即座に理解出来てしまった。 人は死の直前になると今まで体験した記憶が 走馬灯のように見えると言うがそうとも限らない。 なぜなら死に瀕していない私にも恐らくこれが世に言う 走馬灯であろう、という瞬間が訪れたからだ。 想像していたものと一つ違ったのは私の人生体験全てではなく その回想シーンが妻との出会いからであったという点だ。 殺伐とした編集部にアルバイトとしてやって来た日の事。 おっとりしていて締切間際になると戦場と化す編集部には 全く場違いでともすれば使い物にならないのでは? という危惧さえ抱かせた第一印象。 数週間で誰もが認める有能さを見せつけた事。 お互いを叱咤激励しながら戦った日々。 助手として連れて行った取材先で怪我をさせてしまった事。 それがきっかけで親密になり結婚まで至った事。 私たちの大切な宝物である息子を産んでくれた日の事。 気がつくと私は涙を流していた。 過去は常に完璧ではありえない。 自分自身の過去を省みてひどく狼狽した。 仕事に忙殺され家庭を疎かにしていなかったのか! 私が妻に余計な負担を与えていたからではないのか! 前兆があったかもしれないのに何故気づいてやれなかったのか! 車の中で涙を拭き何事もなかったかのように玄関の扉を開けた。 手入れが行き届いた我が家。 それを支えた妻の苦労が脳裏に浮かんだ瞬間 先ほどよりも勢い良く涙が溢れた。 異変を察したキッチンから駆けつけた妻は 私を一目見て全てを理解したようだった。 「ワタシ、幸せよ?なんで泣いてるの?」 年甲斐もなく泣きじゃくる男をか細い腕で優しく抱きしめると 屈託のない笑顔でそう言った。 まだだ。 妻がこれまで私を支えてくれてここまで来たのだ。 過去を反省しているだけでは意味がない。 これから私が全身全霊で妻を支えるんだ。 病は気から、と言うではないか! ガンなどに妻を奪われるわけにはいかない。 妻よ、私がおまえの楯になろう。 私は断固たる決意を持った。 未来は渡さない・・・! |
「未来は渡さない」
「プレッシャーとかフォームとか最後まで色々迷いはあったけど勝ててよかった」 棒高跳びはあらかじめ飛べる限界値がある程度計算できるという。 身長、ダッシュ力、握ることのできるポールの長さ。 小柄な彼には不利な条件ばかりだ。 彼に勝つチャンスをもたらしたのは筋力と柔軟性のバランス。そして「飛びたい」という気持ち。 それが彼に「限界」を超えさせる。 それが彼の骨や筋肉、そして精神にどれ程の無理を強いるものか・・・ 「これで留学の資格を得ることができました。これで大学に行くことができます。学費や生活費も助かるけど、 むこうの大学では勉強もしっかりさせてもらえるから。コーチング法や解剖学、それにビジネスの学位も取りたい」 スポーツの国際試合があると異常なほど愛国心に燃えるこの国で、 世界を目指すスポーツ選手、芸術家、音楽家などへの国や行政からの支援は驚くほど少ない。 彼らの才能や可能性、それらを守るべき盾を何も持とうとしない国。それがニッポン。 いまや新しい才能の流出は経済の世界だけの話しではない。 才能がものをいい、それに負けない努力と、体躯、技術、精神力を持つ者。 過酷な条件が幾重にも要求され、それを乗り越えてきた者達。 彼らが一時の熱狂だけでなく、正当な支援や権利を得るのを誰が止められるものか。 彼らは自分自身の力でまず盾を手に入れたのだ。イージス。「無敵の盾」だ。 「3年後のオリンピックがもちろん今は一番大事です。でもその後も僕の人生は続いていくんです。 先生になるか、競技のコーチになるか、ビジネスマンになるか今はまだわからないけど とにかく精一杯やります」 そして彼らは剣を手に入れる。 何と戦うために? 『未来は渡さない』 アスリートという民族がいる。 国境もなく、むきみの才能と能力だけを問われる。 アスリートという民族がいる。 ― じゃあ最後の質問なんだけど何を考えてるんだい?飛んでいるときに。 ― 別になにも 「別になにも」と、彼は言った。 でも その割に君はずいぶん嬉しそうだったじゃないか あのバーを越えたとき ただ、「飛べた!」と喜ぶ子供のような。 |
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