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2004年03月26日
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リバーランズ・スルー・イット
「ライトバックー!!」快音を響かせて放物線を描いた打球は 強肩が売りである右翼手のはるか頭上を越えて行った。 これじゃ強肩も形無しだ、と独り呟いて笑う。 全速力には程遠いゆっくりとしたスピードで一周する。 それでも照りつける太陽に汗が滴り落ちる。 まあこんなもんだ。 俺はひっぱり専門だからタイミングさえ合えばドカンだ。 ホームへと戻ると皆の手荒い祝福に遭った。 俺のサヨナラホームランでチームは勝利。 こんな暑い日は缶ビールでも飲みたいところだがそうもいかない。 酒は一生飲まない。 自分が自分で無くなる。 酒は一生飲まない。 あの日決めた事。 グラウンドを整備して皆に続いて蛇口を捻る。 水しぶきをあげて顔を洗う。 手を洗う。 次の瞬間、既視感に襲われる。 あの日もこんな太陽が照りつけるクソ暑い天気だった。 脳裏に甦る忌まわしい記憶。 血まみれの手を洗う俺。 生まれ故郷にある毎日遊んだ渓流。 血まみれのTシャツを洗う俺。 傍らには弟の死体。 血まみれの手を洗う俺。 Tシャツの血は落ちるどころか濃さを増す。 血まみれのTシャツを洗う俺。 弟の手が川の流れに揺れている。 必死に洗う俺。 Tシャツは諦めて捨てる。 必死に抗う俺。 本当は2人で甲子園に行くはずだった。 なのに弟はもういない。 残った俺がバットを振っているのは甲子園でなく塀の中だ。 俺達はこんなにも変わってしまった。 けれどきっと 『あの川は今も、永遠の夏を流れている』 |
リバーランズ・スルー・イット
夏の思い出 手を繋いで歩いたあの夜月明かりが君と、川と、木々を照らして 君が小石を踏む音と、せせらぎと、木々を抜ける風の音 時折、月を見上げる君の横顔 君に会えるのは夏休みの1週間 神奈川の山奥、中津川で 全国の小学生が集まるサマーキャンプ 僕らは6年生だったから サマーキャンプはその年で終わり 僕は横浜で、君は仙台で、それぞれ中学生になる 今だったらメールアドレスを交換したり するのかもしれないね 当時の僕らは何通か手紙のやりとりをしただけで 中学生になり、新しい友達と、急に広くなった世界と なぜだかやりきれない閉塞感に 最初はただ流され、抗い、やりすごす方法を覚えた その頃にはもう君に手紙を出すこともなかった 大人になった今、 夏はわずらわしいだけの季節になった 満員電車、アスファルトの道、スーツにネクタイ 知らずに舌打ちしてしまう 僕はいつから夏を取り逃がすようになったのか 僕らがサマーキャンプをした 中津川、宮ヶ瀬の村も、里山も、河原も 今はもう何も無い 全てダムの底だ 一人だけで過ごす夏の日 振り返るとき 『あの川は今も、永遠の夏を流れている』 |
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