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2004年01月23日
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イージー・ライダー
数年前の今頃はちょうど大学受験だった。数学が苦手で周囲が模試で満点を取る中、 独りだけ遅れを取っていた。 本当は国公立に入りたかったのだが センター試験で躓いた。 苦手の数学は努力の甲斐あって満点だった。 喜びも束の間。 逆に得意科目で惨敗を喫してしまったのだ。 気持ちを切り替えて私大に集中する。 国公立以外で行きたいと思うような大学は 無かったので行かなくても良いかと思っていた。 そんな時、俺が慕っていたバイトの先輩に会った。 高校2年の終わりまでずっと一緒に遊んでいて 先輩にはカッコイイ事をたくさん教わった。 今にして思えばカッコ良くも何でもなく ただいたずらに精神を蝕んでいただけだったが それでも当時は憧れ心酔した。 彼に現況を告げるとこう言った。 「五千円より一万円にしろよ」 その言葉を受けて結局大学に行く事にした。 結論から言えば悪くなかった。 むしろ楽しかった。 エスカレーター式で上がってくる奴らは 既にいろんな遊びを遊び尽くしていたせいもあった。 よく遊びよく学び4年間を過ごし商社に入った。 同期は全員バイリンガルで劣等感があった。 劣等感がバネになったのかわからないが 優秀な同期を差し置いて花形部署への異動辞令。 しかし自分の理想とビジネスライクな発想には 天地の開きがあった。埋めようも無かった。 偶然なのか必然なのか再び彼に出会った。 彼に現況を告げるとこう言った。 「BORN TO BE WILD!」 俺は会社を1年で辞めた。 収入やステータスは失ったが アイデンティティは今でも生きている。 彼のおかげで生きている。 でも彼は生きていない。 50万を鼻から吸って逝ってしまった。 彼は最期までWILDだった。 |
イージー・ライダー
彼と会ったのはどこだったっけ?毎夜続く乱痴気騒ぎ。明け方まで、バーからバーへ。クラブからクラブへ。 テキーラやウオッカで乾杯を繰り返して 本当は名前も知らない遊び仲間たちと 酔っ払ってふざけあい、大騒ぎして笑い転げ、抱き合ったり踊ったり。 そんな日々の中の薄暗い地下の店で彼を見つけたんだ。 調度良く酔っ払い始めていた私は カウンターの隅の彼を見つけただじっと見つめた。 こちらを振り向かせるように 視線の温度を上げ 見つめ続けた。 そしてやっと彼は振り向き 大勢の仲間と一緒にいるにもかかわらずまっすぐに私を見つけた。 私は嬉しくなって くすくす笑いながら彼を見つめ たっぷり塗ったグロスと酒の雫で光っているだろう唇を、きゅうっとつぼめて ちゅ 彼にキスを贈った。 彼は少し笑って 私にだけ分かるような小さな手の動きで私を呼んだ。 それから私たちは頻繁に一緒に夜を過ごし セックスをしたり、ただ抱き合って寝たりした。 飽きずに眠ったり食べたり抱き合ったりをただ繰り返している私たちを まるで2匹の怠惰な動物のようだと彼が笑った。 一緒に住んでいるわけではなかったが 私の部屋のテーブルにはいつの間にか いつも彼の小さなコンピューターが置かれていて 夜中に、ふと目を覚ますと、小さなモニターのほの暗い青い光に照らされて 彼がコンピューターに向かっていることがよくあった。 彼は働いている様子はなかったが、お金に困った事はなかった。 白い薬を売っていてお金はいつもたくさん持っていた。 時折、それを自分でも使い、私はそれをとても嫌った。 ある夜、大好きなテキーラが突然の吐き気とともに飲めなくなり まさかと思いつつ検査薬を使ってみた。 あたり。 え?子供? そのとき2、3日顔を見せていなかった彼がふらりとやってきた。 私はくっきりと陽性を記している検査薬を見せ、妊娠を知らせた。 彼は思いのほか喜び、産めと言った。 私とあなたの子供? ほんとに? 私たちが親で大丈夫だと思ってるの? 彼は笑いながら言った。 「BORN TO BE WILD!」 彼のいない夜、吐き気が治まっていた私はうきうきと久しぶりに遊びに出かけた。 薄暗い店内、いつもの仲間が近づいてきて私に言った。 「あんたのオトコ、昨夜、キメすぎて死んじゃったんだって?!あんた大丈夫なの?!」 彼が私に残したものは 私の部屋へ置きっぱなしの 紙袋に入った彼の汚れた服とたくさんの札束、たくさんの白い粉。 小さな命と 小さなコンピューター。 |
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