TwinTrip
2003年11月28日
アイデンティティー
鍼灸師大会。
確かに変わった大会だとは思いましたよ。
何を基準に何を判定して優勝者を決めるのかが
想像つきませんでしたからね。
しかしまあ、なんと言うか・・・そう!
現地に・・・、会場に行けばわかるだろうと思って参加したわけです。
参加費無料なのに優勝すれば賞金がもらえるのですから当然でしょう。

来てみるとご近所さんばかりが集まっていました。
当然なんですがね。
我が村は人口が少ない割りに整体師・鍼灸師が多いのです。
しかもその大半が村の外れにある神社周辺に住んでおりますからね。
神社で開催した方が都合が良かったんじゃないかと思うぐらいですよ。
ええ、私も神社の近くに住んでおります。
良かったら刑事さん、あなたも後で参拝なされると良い。
大きさは50cm足らずしかないけれど純金製の観音様ですからね。
あ、すみません。関係の無い話でしたね。

順を追って説明いたしましょう。
まず、ルールの説明が行われてその後、鍼灸師連盟だったかな?
その会長だか何だかの偉そうなお爺さんが開会宣言をしました。
それから大会が始まったわけです。
制限時間は120分ということでしたが
120分を大幅に過ぎてから参加者の1人が叫んだわけです。
「おい!いつが終わりなんだ!?」
参加者全員がどうもおかしいと気づいた時には
主催者側の人間が1人もいなかったのです。

何故気づかなかったと思いますか?
思うでしょうね。説明いたしましょう。
会場には数台のビデオカメラが設置されており、
判定は翌日以降にビデオで行うとか言っていました。
つまり判定する審判員のような人間はいなかったわけです。

ビデオの内容を確認ですか?
あれはビデオカメラじゃないですよ。
形だけで中身は空っぽ。
録画中っぽく赤いランプは点灯しますけどね。

一体なんだったんでしょうね?
イタズラでしょうか?
イタズラだとするとこれだけ手の込んだイタズラをする意味が
全くわかりませんね。
だってそうでしょう。手間だけじゃなくお金もかかっていますよ。
そして念のため警察に連絡した次第です。

刑事さん、ここまでで何かわかりましたか?
え?
すみません、聴こえませんでした。
もう一度おっしゃって下さい。


「ここに集まったのではない。ここに集められたのだ」

え・・・・!?

あ・・・・!
みんなーーっ!!神社だ!!神社へ急げ!!!
− ユウジ -
アイデンティティー
あぁ、目が覚めましたか?
海底の城のもてなしはご満足いただけましたか?
そうでしょう?最高の女、酒も料理も一流ですから。
この竜宮城を気に入っていただけて本当に良かったです。

本物の竜宮城みたいだって?
えぇ、本物の竜宮城なんですよ。ここは。



むかしむかし浦島は助けた亀に連れられて
竜宮城へ来てみれば目にもかけない美しさ

ただのお伽噺話、寓話だと思いますか?
今では語って聞かせることもなくなった
むかしむかしの絵本の物語だと?

いいえ、
世界中に伝わる寓話や神話は
おそらく、そのほとんどが実話を基にしたお話しでしょうね。

フランケンシュタインも
ドラキュラも
ミノタウロスも。

そう、海底に住む私達、竜宮の民もこうして実際にいるのですから。
しばしば私達は地上に住む人間から
人魚と呼ばれることもありますけれど。

寓話や神話はたいてい、
どこかで少しづつ話しがねじれ、歪んで、
伝わるものなのです。

例をあげれば、浦島太郎は竜宮城へ招かれたのではありません。
私達が誘拐したのです。
そう、あなた達は

「ここに集まったのではない。ここに集められたのだ」

私達の食料にするために。

なぜ私達が人間を誘拐し
竜宮城へ連れて行き、美しい女をあてがい、
美しい海底の景色を見せるのか分かりますか?

あなた達が快楽を感じると脳から分泌されるドーパミンその他の物質が
人間の肉の味を良くするからなのです。
そう、私達にとってこの上ない調味料。

そうそう、
寓話はどこか少しづつ間違って伝わると私が先程言ったでしょう?
人魚の肉を食べた者は不老長寿を得るという言い伝えを知っていますか?
そう、「八百比丘尼」ですね。
あれはちょっと間違いがありまして
人間が人魚を食べるのではなく、
私達人魚が人間を食べ、800年の寿命を生きるのです。

あぁ、すっかり長話をしてしまいましたね。
食事の用意ができたようですよ。

さあ、行きましょうか。
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