TwinTrip
2003年11月14日
チェンジング・レーン
親友に告白してフラれた。
ずっと硬派で通してきた俺が告白だなんて
笑うに笑えない話だ。
アイツとは誰よりも仲が良かったんだけど
世の中そううまくはいかない。

アイツと結ばれる場面を何度も想像した。
今日でその可能性も無くなったわけだ。
気持ちは落ち込んでいるのに
想像してしまったが最後、たまらなく欲しくなってきた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

うっ・・・・!

はー、まただ。
この脱力感というか寂寥感。
後悔に似たむなしさがこの瞬間は必ず襲ってくる。
ホントにつまらない。
男に媚びた事が無いって豪語してたじゃない。
俺は知らないけど相当有名なモデルなんでしょ?
そんな女がなんでこんな汚い路地裏で
下半身露出してるわけ?
え・・・?
頼んでないのにクチでキレイにしてくれんの?
あ、聞いてないね。はいはい。

はぁ・・・。
どんだけいい女抱いても満たされねーなー。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

誰でも言いからこの欲求を満たしたい。
そう思いながら俺は人通りの少ない道を徘徊していた。

人の気配がしたので振り返ると男がいた。
ものすごくスタイルの良い女が跪いてしゃぶっている。

俺は2人に近づいた。
男の方が俺に気づく。

「あは、見られちゃいました?」

答えずにしゃぶっている部分を凝視した。

「良かったらヤリます?デルモですよこの女」

ベルトを外しながらさらに近づく。

「あははは!おい!次の相手はマッチョの兄さんだぞ!」

怯える女を男から引き剥がす。
女を一瞥してから男の方へ視線をやる。
男の顔をよく見る。
俺が今日告白した親友に似ていなくも無い。

「え・・・?俺・・・!?」





『その瞬間、見知らぬ2人の男の人生が交差した・・・』
− ユウジ -
チェンジング・レーン
午後5時、冷たくなり始めた空気の中、
事務所前の歩道にバイクを止め、ロックをした。
路肩のガードレールに腰掛け、煙草を吸う。
ぼんやりバイクを眺めながら思った。
「そろそろこいつも手放さなきゃな。バカはいいかげん終わりだ。」
このバイクは盗品だ。
去年のちょうど今ごろ、高校を中退するころ俺が盗んだものだ。
街で起したささいなケンカが学校で問題になり
追い出される寸前だったし、家ん中は家ん中でめちゃくちゃだった。
おまけに初めて好きになった女は俺の友達ほとんどと寝ていた。

深夜、よく街を歩いた。
歩きながら考える自分の未来、ばらばらのイメージ、像を結ばない映像。
黄金町の橋の先、街灯に照らされてシルバーのタンクは鈍く光っていた。

風景は、ごく自然に頭の中に描かれた。
このバイクで駆け抜けるワンシーンだ。
夕立の向こうに黒々とそびえる山の影、あるいはきついコーナーの先に見える青空、
どこまでも続くほこりっぽい道、風が吹きわたる音や
まるでシャフトがなめらかに動く音まで聞こえてくるようだった。

なにも考えず迷わずバイクを盗んだ。それは簡単な作業だった。

バイクを手に入れ、夢中になった。
なんだかさっぱりした気持ちで学校を辞め、
離婚寸前の両親から敷金礼金だけふんだくってアパートを借り、
バーで雑用やバーテンの真似事のバイトも見つけた。一人で生きてみようと思った。

今はデザイン事務所の雑用、下働きだ。
朝から夕方まで学校へ行き、夕方から夜中まで事務所の仕事をし、
夜中から朝方までは事務所のマックで学校の課題を仕上げた。
事務所の仕事や学校の課題が無い日は以前働いていたバーでもバイトしている。
おぼろげながら未来のイメージは像を結んできた。

そういえば、こいつを盗ってからなんだかふっきれたっていうか、運が向いてきたってほどじゃないけど
やっと俺の周りの世界が動き出したんだよな。

煙草を捨てぼんやり考えていた俺の前を
学生カバンを下げたひねくれた顔のガキが通り過ぎて行った。
ガキは通り過ぎるまでずっとバイクから目を離さなかった。離せなかった。

「その瞬間、見知らぬ2人の男の人生が交差した。」

あーあ。盗るな。あのガキ。あの目はいつか見た、俺の目と同じだ。

朝方、事務所を出たら案の定、バイクはなかった。
ち。ガキめ。

シートをまたぎ、タンクを両脚でしめつけたときの
ジーンズごしに伝わる冷んやりした感触を思い出した。
この前つけたグラブカバーはあんまり合ってなかったんだよな。
古くなってきたオイルシールからオイルがちょっともれるんだよな。
それにタンクのあの傷が目立って・・・。
なくしてしまえば、欠点さえも愛しく思い出せる。

まあいいや。あのなガキ、
そのバイクは俺が8000キロも乗った中古だ。
お前にとっては最初のバイクでも、そのバイクはお前にとって年上の女みたいなもんだ。
優しいけれど、冷たくて
見かけよりずっとタフだけれども、
強いクセがある。

路肩のガードレールに腰掛け、煙草を吸いながら
ぼんやりそんなことを考えていた。

まあ、乗れるもんなら上手く乗ってみな。
そのバイクのおかげで俺は何とか車線変更できたみたいだ。
お前のチェンジングレーンも
上手くいくと
いいよな。
− ワタル -
Copyright © 2003-2005 ユウジ/ワタル All Right Reserved.