TwinTrip
2003年10月31日
メメント
ジャーーーーーー。
カチッ・・・ボッ!

ふー、いい加減インスタントラーメンも飽きたな・・・。
あれ?
ライターどこやったっけ?
ライターライター・・・・。
まいっか。
目の前にガスレンジあるし。

あ、くそっ!タバコがねえじゃねーか!
お湯が沸くまでの間に一服すんのがちょうどいいのによ。
しょうがねぇから買いに行くか。

サイフサイフ・・・と。
あーもう!散らかり過ぎてわかんねーよ!
ガチャン!
いまどきブタの貯金箱も何だしちょうどいいや。
お?結構入ってるじゃん。



んだよ!売り切れかよ!!
他のじゃ吸った気しねーんだよなぁ。
コンビニまで行こうっと。

ん?この電器屋ってまだやってんの?
商売にならねぇだろ。
ほとんどが量販店で買うだろうしさ。
お、いっちょまえにプラズマテレビ。
やるじゃん。
あ、この医者見た事ある。
最近の若者は記憶力が低下してるって嘆いてたな。
あ、大学教授だったか?

現代は覚える必要が少ない事が原因だとさ。
確かにパソコン使ってると漢字はどんどん忘れていくよな。
電話番号だってケータイさえあれば
覚えるどころか手帳に控える必要すらないわけだ。

うるせぇな!
さっきから消防車がウーウーとよぉ。

何の話だっけ?
んー、あ!記憶力低下の話な。
低下って昔と比べてるわけだよな?
でもよ、昔と比べて現代って圧倒的に
情報量が増えてるわけよ。わかる?
それなのに同じ定規で計られちゃってもなぁ。

あ、テレビに見とれてタバコ買ってねーや。

また消防車だ。火事だよな。
俺の家の近くか?
まあいいや。

で、だ。
情報量が増えても記憶容量は増えないだろ?
だから昨日の晩メシとか思い出せなくても
しょうがないんだよ。
って言うか思い出す意味あんのか?
俺なんて昨日の晩メシどころか
今から10分前も思い出せないっての。
はははは!
ははは・・・

「10分前、俺は何をした?」
− ユウジ -
メメント
人が二人並んで歩けるかどうかというぐらいの、そんな細い道
先はどこへ続くのか、霧が立ちこめていて何も見えない
先どころかあたりも薄暗く
道の左右さえ何があるのかはぼんやりとしている

ただ、この道をまっすぐ歩くより他にないんだと、それだけは漠然とわかっている
コンクリートの道を裸足で歩いている感触だけがリアルな感触で
それ以外はまるで夢の中の事のようにはっきりとしない

一人でどれだけ歩いた頃だろう
ひとりの中年の女性が本当にふいに、隣を歩いていた
声こそ出さなかったが、ぎょっとして息を飲んだ気配を察したのか
女性が私のほうを見た

「あら嬉しい。ずっと一人で歩いてきたから 誰かと一緒に歩けるなんて嬉しいわ。」

にこやかに女性が話し出した
ここはどこなのか、どこへ行くのか、なぜ何も周りが見えないのか
なぜ裸足なのか
聞きたいことは山ほどあるはずなのに質問の言葉は出てこなかった
言葉を捜しながら目線を落とすとやはり中年の女性も裸足で歩いていた
しかしコンクリートを歩く私とは違い、なぜか女性の歩く道は
ごつごつと尖った剥き出しの岩の上で、裸足の足の裏からは血がにじみ出ている

「あっ、足から血が・・・。なぜ岩の上を歩くんですか?こちらへ・・・」

私がびっくりして聞くと、女性はつぶやくように言いました

「岩の上?あなたにはそう見えるのね。
 ・・・。それもしょうがないのかもしれないわね。
 人の家庭を壊したんですもの。
 でも、コンクリートの上を歩いている感じしかしないのよ。」

女性は私の足元をチラと見たが何も言わなかった

気が付くと今度は着物を着た白髪のおばあさんが少し前を歩いている
いつからそこに?どこから?
おばあさんの足元を見るとやはり裸足は同じだが、咲き誇る花々の上を歩いている
中年の女性がまた話し掛けました

「おばあさん、おばあさんもご一緒しましょう。 まあ、おばあさんは花々の上を歩いているのね。
まっとうされた方はやはり違うのねぇ。」

おばあさんは振り向いて

「おやおや、お仲間がいたとは知らなかった。嬉しいねぇ。 あら、二人とも若いのにねぇ。
花の上?道路を歩いている感じしかしないけど。まあ私は寿命だったからねぇ。
話しによると砂の道、土の道、沼の道を歩く人もいるそうだよ。
人を殺めたものは火の道を歩いて行くとも言うしね。」

私もコンクリートの道を歩いている感触しかしないが
二人には私の道はどう見えているんだろう
ふと不安になり、自分の後ろを振り返ってみたら
私の来た道は無数の針が敷き詰められた針の道だった
私のものだろう血の跡が引きずったように2本続いている
叫び出しそうになりながら考えた、なぜ私が針の道なの?
私の様子を察しておばあさんが言った

「あぁ、後ろを振り向いてはいけないよ。あちらへ行かれなくなるからね。
なぜ針の道を歩いているのか、理由を憶えていないんだねぇ。
見てしまったものはしょうがない、自分のした事を思い出してみるんだね。
そうだねえ、大体10分くらい前のことさ。
死んだものの魂がここに着くまでに10分くらいしかかからないはずだもの。」

死んだもの?
自分のした事?
なんだ?何のことだ?

「10分前、俺は何をした?」
− ワタル -
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