TwinTrip
2003年09月19日
御法度
最近ダンナさんの帰りが遅いな。
頑張り屋さんだから心配。
もう午前2時だよ?
大丈夫?

あ、帰ってきた。

「ま、まだ起きてたのか・・・?!」

当たり前だよー。
ゴハンは?
今から温めるから一緒に食べよ。ね?

「もうやめてくれないか!!」

突然ダンナさんが叫んだ。

ごめんね。
急いで用意するから待ってて!
もっと手際良くやらないと良い奥さんになれないよね。

遠くの方で誰かの声がする。
「先に寝ててくれよ・・・」
「もう苦痛なんだ・・・」
「君といると心が休まる時がない・・・!」

ダンナさんしかいないのに何で聞えるのかな?
ううん。
ダンナさんじゃないよ。
ダンナさんはそんなコト言わないから。
これだけ愛し合ってるダンナさんが言うわけがない。

プルルルル・・・・

電話だ。
出なきゃ。
誰だろう?こんな時間に。

ハイ。

「あなた奥さん?」

ハイ?
(女の人だ・・・)

「いい加減、彼を解放してあげてよ!
このままじゃ彼、おかしくなっちゃうじゃない!!」

何を言ってるの?
この人、気が狂ってる??

「あなた狂ってるわよ!」

え・・・?
わたし・・・?


『わたしが狂っているのか? 』


チン!

あ、レンジが鳴った。

「ちょっと聞いてるの!?」

遠くで何かが聞える気がするけど
ゴハンの用意をしなきゃ。

「ちょっと!ねぇ・・・」
ガチャ。

サラダもあるよ。
ドレッシングをかけて・・・さあ出来ました!
たんと召し上がれダンナ様!
− ユウジ -
御法度
先日友人に聞いた話しを思い出していた。

友人の知り合いに精神をおかしくしてしまった人がいて
その人は一日中、シャツの襟から背中に入り込んでしまった大きな蜘蛛を
取ってくれと泣きながら懇願しているのだそうだ。

もちろん
蜘蛛なんていない。

少し詳しい話しはこうだ。

その人はほんの数ヶ月前まで普通に働き、健康に暮らしていたそうだ。

ある日突然、脳のどこか、神経だったか血管だったかに異常が起こり
脳があるはずのない信号を出してしまうようになった。

詳しくは良くわからないが、

人は感覚器官に与えられた刺激作用を通して、
外界の事物・事象を、ひとまとまりの有意味な対象としてつかむという。

つまり、人は何か見たり聞いたり触れたりしたとき
目や耳や皮膚からの情報を
脳は、ごく微量な電流で各器官に送り
人はそれらの情報を体感として知覚する。

その人は何も触れていないのに
触れていると脳が信号を出してしまうのだ。

これは幻覚や幻聴といったあやふやなレベルのものではなく
その人にとっては脳が信号を出し、
実際に触れている(または触れられている)
触覚、視覚、聴覚が伴った事実なのだ。

その人は脳が間違った信号を出しつづける限り
その人にとって事実であるところの
背中に張り付き這い回る蜘蛛を払いつづける。
治療の方法は今のところまったく無いとのことだ。

そして更に可哀想な事に
本人には

『わたしが狂っているのか? 』

という、認識は無いという。


何もわからないほど
狂ってしまったほうがどんなかに楽なことだろう。
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