TwinTrip
2003年08月22日
CUBE
僕が初めてあんな目に遭ったのは6年前。
よくある三角関係のもつれってやつ。
別れたかった方の彼女に刺された。
もちろん彼女は逮捕された。

だがそれで終わりじゃなかった。
再び刺された。
確か3年前だ。
前回は執行猶予付きだったが今度は実刑。
彼女は刑務所へ。

悪いのは僕だとはわかっているがやりきれない。
刺された事もそうだが彼女をそんな風に
変えてしまった自分も嫌になる。

彼女が出所して半年近くになる。
さすがにもう二度とあんな事はないだろうと思う。


今日も終電で家へ帰る。
会社を変えてから残業続きの毎日だ。
家の近くまで来てから冷蔵庫にビールがなかった事を思い出す。
コンビニへ行こうと振り返ると何かが動いた。

路駐している車の陰に誰かいる・・・!

気づかないフリをしてコンビニへ行く。
買い物を終えた後に牛丼屋に入る。
牛丼が食べたかったわけじゃない。
奥にもうひとつ入り口のある店なのだ。
そっと店を出て尾行者が誰かを探る。

・・・・・!

店の前で店内をうかがっていたのは
まぎれもなく彼女だった。

そう。
げ・ん・ざ・いの彼女だ。

何故、今付き合っている彼女がこんな事を?
今の僕は浮気なんてしていない!
誤解だ!
誤解を解かなければ・・・!

「解かなければ殺される・・・」


怯えている彼の背後には別の女がいた。
3つ目の刺し傷を作ろうとしているあの女が・・・。
− ユウジ -
CUBE
答案用紙の全ての答えを見直して、ため息をついた。
今回も大丈夫。
たぶん今回も満点かそれに近い点数。
模試の残り時間はあと7分。とたんに眠気が襲ってきた。
家ではぐっすり眠れることなんてないから。
あの人がパパの新しい奥さんになってから
ぐっすり眠れたことなんてない。

私が小さかった頃はあの人も優しかった。
新しいママだよってパパに紹介された時は
あの人も私もぎこちなかったけど、すぐ仲良しになれた。
と、思っていた。

いつからか
あの人は私をひどく打つようになった。

最初はほんの些細なこと
ジュースをこぼしただとかトーストを残しただとか。
腕や肩や背中を平手で打つくらいだったのに
だんだんエスカレートしていった。
顔とかは絶対に打たれない。パパにバレるから。

傍目から見れば優しくてしっかりしたお母さんだろう
友達からもよく言われる
"マキちゃんのママって優しくっていいなー!"
体中で鳥肌がたつ。

小学校に入ったころからあの人が私を打つ理由が一つ増えた。
学校の成績。塾の成績。
少しでも悪いとめちゃめちゃに殴られる。

全国に何十も分校がある大きな中学受験対策塾の
去年の期末テストで全国のベスト10から落ちたとき
めちゃくちゃに打たれ、意識を失ったら水をかけられた。

次、また成績がベスト10から落ちるようなことがあったら
きっと殺される。

あの人は優しそうな母親の笑顔で言っていた。
「私は勉強しろなんて一言も言わないんですよ。
でもマキちゃん、がんばりやさんで。だから私は応援しているだけなんです。」
体中で鳥肌がたつ。

もう一度答案を見直す。
だいじょうぶ、だいじょうぶ、と自分に言い聞かす。

「解かなければ殺される・・・」

という恐怖が私の集中力を高め、
私を答案に向かわせる。
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