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2003年08月01日
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E.T.
曇り空だ。波も荒れてる。 海開きにはまだ早い浜辺に来ている。 隣にいるのは学年一の才媛。 学校を休まないだけが取り柄の俺とは 全くと言って良い程釣り合っていない。 「無理言ってごめんね」 別に構わないよ、 と答えた瞬間に雨が強く降ってきた。 浜辺にいた何人かが近くのレストランに避難する。 雨が降った時に備えて常に積んでいる ターポーリンを彼女に渡す。 かぶっていれば不恰好だけど雨は凌げるだろう。 彼女の顔は雨に打たれていたけれど 泣いてはいなかった。 再びタンデムシートに彼女を乗せ走り出す。 何もする事が無い時、いつも独りで行く貸し倉庫へ向かった。 彼女が今日、俺と一緒にいる理由は簡単だ。 バイクを持っているから。 学年でバイクを持っているのはまだ二人しかいない。 もう一人は彼女の失恋相手。 よって必然的に俺。 「荷台に乗ってみたかったんだ」 荷台って言うなよ、と彼女を振り返ると 今にも泣き出しそうな笑顔をしていた。 「あたし・・・・忘れられるかな・・・?」 そう言いながら歯を食いしばって涙をこらえる彼女。 あのさ・・・ つらかったら泣いちゃえよ。 思いっきり泣けばいいんだよ。 つらいからって忘れちまうんじゃなくてさ。 いつでも取り出せる良い思い出にしちゃえよ。 いつまでもオマエの心に、な? 堰を切ったように泣き出す彼女を柄にも無く抱きしめた。 出来ればアイツだけじゃなく俺も入れといてくれよ。 「いつまでも きみのこころに」 |
E.T.
リビングのソファの上にタオルを敷いてジョンを寝かせていた。ジョンの病気が悪くなってからはジョンはそこに寝かせられていたんだ。 僕らがキッチンで食事をしているのも見えるし、宿題だってリビングでしたし、 塾と水泳教室に行く意外はずっと家にいた。 夜は僕とお母さんとお父さんが交代でリビングで寝てジョンに付き添っていた。 東京で一人暮らしをして大学に行っているお兄ちゃんも昨夜遅くに帰ってきていた。 ジョンを飼いはじめたのはお兄ちゃんだ。 僕の生まれる前から僕の家にいるジョン。 僕の最初の友達だ。 毎日公園へ行ってボールで遊んだし、どこだって一緒に出かけた。 お寺の裏山の墓地の探検にも一緒に行ったんだ。 ジョンは力無く手足をだらんと伸ばして横向きに寝ている。 前みたいにきちんと座って揃えた前足の上にアゴをのせているのはきっと辛くてできないんだ。 たくさん走った後みたいにはあはあと荒い息をして お腹が上下に波打っている。 苦しいの?ジョン。 僕とお兄ちゃんとお父さんとお母さんはジョンの手や足や背中や頭を優しく撫でつづけた。 ジョン。ジョン。 呼んでも、もう耳を動かしてくれないし、目をつぶったままで開けない。 ジョン。ジョン。 みんないつのまにか泣いていたので涙がぽたぽたとジョンの手や足や背中や頭に落ちていった。 イヤだ、ジョン、死なないで。行かないで。行かないで。 最後にジョンはクーンと小さく鳴いて 息をしなくなった。 僕は涙が止まらなくて、ずっと、ジョン、ジョンと名前を呼んでいた。 その時 頭を撫でていた僕の両手から伝わって 直接頭の中で聞こえたんだ。でもそれは言葉じゃなかった。 直接頭の中に入ってきたイメージ。みたいなの。 それはきっと僕が生まれてからこの10年、ジョンがずっと発していたメッセージでもある。 なかないで なかないで ぼくは いつまでも きみのこころに |
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