TwinTrip
2003年07月18日
シザーハンズ
"マキちゃんのママって優しくっていいなー!"

娘の友達がそう言ってくれたのを聞いて微笑する私。
傍目から見れば優しくてしっかりしたお母さんだろう。
そう見えるように頑張っているわけだから。



ずっと不倫だった。
わずかな時間しか会えない日々。
数少ない友達と会う度に吐くまで飲んで
"もうやめなよ"とみんなに諭された毎日。

ずっと信じてた。
一緒にはなれないかもしれないけれど。
彼こそが運命の人だと。

数年の時を経て、私は彼と一緒になった。
そんなつもりはなかったが結果として略奪した形。
いやその気が全くなかった訳じゃない。
どこかでずっと望んでいたこと。

欲しいものが手に入って私は幸せだった。

彼には娘がいた。
大した問題だとは思っていなかった。
私が産んだ子ではないけれど
彼の血を受け継いでいるんだもの。
だから自分の娘に変わりはないと思って育てた。

あの検査結果が出るまでは・・・。

私は子供が出来ないカラダだった。
その日から娘を見る私の眼が変わってしまった。
大好きな彼の子供なんだから、と自分に言い聞かせる。
でもダメ・・・!

「抱きしめたいのに、抱きしめられない・・・」



"マキちゃんのママって優しくっていいなー!"

娘の友達がそう言った後、
娘はひきつった笑顔を見せながら肩を押さえた。

私が今朝叩いた所が痛むのかしら?
肩だった?背中じゃなく?
叩きすぎていちいち覚えてないわ。
− ユウジ -
シザーハンズ
私の彼には5人の恋人がいる。

一人はもう7年も付き合っている秘書の女。
一度だけ彼のマンションのエレベーターホールで見かけたことがある。
髪の長い優しそうな人で、クリーニング屋に寄ってきたらしくて
見覚えのある彼のスーツを抱え持っていた。
彼女とのセックスは、自分が必要とされていると実感できる暖かいものなんだって。

二人目は彼が通っているスポーツクラブのインストラクターの女。
彼女が競泳用の水着を着た姿はすばらしくて、セックスのときもときどき水着や
レオタードを着てもらうのだとか。

三人目は大学生の女。
横浜の女子大に通っていて授業やバイトに忙しく、
セックスが終わるとすぐ帰ってくれるのが特に気に入っているらしい。

四人目は年上の女。
以前は彼の上司だったらしいが、今は独立してフリーで仕事をしているらしい。
頭が良く、一番話が合うと言っていた。
気が強くて、貪欲に求める激しいセックスが楽しめるんだって。

で、最後の五人目が私。
高校生で17歳。バイト先のドーナツ屋によく来る彼と顔見知りになり、仲良くなって
付き合うようになった。
セックスはしていない。処女はつまらないからセックスしないんだって。
お茶を飲みながら彼の五人の恋人の話しを聞くことができるただ一人の恋人。

どうして五人も恋人が必要なのか彼に聞いたことがある。
彼は困ったような顔でこう答えた。

「どうしようもなくセックスしたいとき、四人も相手がいれば、
誰かしらに連絡が取れて、することができるだろう?
誰かを抱きしめなければ
安心して眠ることができない夜が僕にはあるんだ。」

「セックスが終わって女が服を着始めるころには
もう頭の隅でこれから会えそうな女のことを考えてしまうんだ。
なんでなんだろうね。
彼女達一人一人はとても良い人たちで僕とずっと一緒にいたいと思ってくれているのに。
僕もそう思えたらどんなにいいだろう。」

かわいそうな人。
女から女へ。
ホテルからホテルへ。
女の待つマンションからマンションへ。

彼は転がるように移動を繰り返して
ひりひりするような
身悶えするような欲望を抱えて
誰かを抱きしめたいと願いながら

結局は
誰のことも
抱きしめてあげられない。

きっとこれからもずっと



抱きしめたいのに、抱きしめられない
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