TwinTrip
2003年07月11日
バッファロー'66
俺も来月で13歳になる。
思えばヒドイ13年だった。
と言ってもここ3、4年ぐらいだけどね、
いろいろと考えるようになったのは。

俺には父親がいない。
その事に関していろんな人にいろんな話を聞かされた。
何しろ俺が覚えていない頃の話なもんだから
どれが本当かなんて俺には判定しようが無い。

思うんだけれど子供の頃の記憶なんて90%以上が
両親や他の大人たちに植え付けられた後付けの記憶だよ。
大人たちが壊れたテープレコーダーみたいに
何度も何度も繰り返し話してくるから
それを自分が本当に体験した気になっちゃうんだ。

母さん?母さんはいるよ。
いるにはいるんだけどさ。
彼女、病院に行っていない時は叫んでばかり。
体中の蛆虫が這い回るんだってさ。
虫なんていやしないのに。
俺が注射を打ってあげないと暴れたり
いろんな物を投げまくるから片づけが大変だよ。

あ、そうだ。
みんな知ってるかな?
彼女みたいな症状の場合はね、
投げられる物を片づけておくと逆効果なんだよ?
投げても問題の無い物を適度に用意しておくんだ。
いい加減、俺も覚えたよ。


ホント・・・いろんな事を覚えたね・・・。

最近のニュースを見てるとすごく焦ってしまう。
何かあった時、法律が改正されてたら厄介だからさ。

母さんをこんな風にしたヤツの居場所は
前から突き止めてある。
いつか同じ目に遭わせてやるとずっと思っていた。

必要な物が昨日ようやく手に入った。
代償はかなり痛かったけどね。
今朝もウンコする時に激痛が走った。
え?
何を手に入れたかって?
母さんが母さんでなくなってしまったPCPって薬だよ。

「最悪な俺に、とびっきりの天使がやってきた」

薬の別名はエンジェルダスト。
− ユウジ -
バッファロー'66
どうやら俺は天使らしい。
だからといって白い羽も生えてないし、頭の上に天使の輪なんて乗っかってない。

人間は一人ひとりにそれぞれ一人つづの天使がついている。
天使の仕事なんて最悪だ。
いくら一生懸命相手を守っても感謝ひとつされやしない。
好きでやっているわけじゃない。
天使もサラリーマンみたいなもので上からの命令に従うだけなんだよ。

俺の姿はほとんどの人間には見ることができない。
ほんのたまに見えてしまう人間もいるようだけど
俺達の姿は人間と同じようなので不審に思う人はいないみたい。

俺が守っているこの男、ろくなもんじゃない。
大学生なんだけどめったに学校には行かないし
親のことは金をもらうだけでバカにしきっているし
適当な女の子と適当に寝て 嘘ばかりついて
イヤなやつなんだ。

こんなイヤなやつにも最近彼女ができた。
あかるくてかわいくてすごくいい子だ。
この男が嘘をついたり他の女と寝たりすると
男のことが好きな彼女はすごく悲しんで
彼女の柔らかく明るい色の心がみるみる灰色になる。
そんな場面を何度も見た。
見ているこっちがたまらないよ。

ある日、また嘘をついて男が彼女を泣かせてしまった。
男は泣いている彼女をもてあまし席をたって彼女を置き去りにして行ってしまった。

俺はその場を離れられず
泣いている彼女の髪をそっと撫ぜていたんだ。

そうしたらふいに彼女が顔を上げ俺を見つめた。俺はびっくりして彼女から手を離した。
そして彼女はつぶやくように話し掛けてきたんだ。

「あなた、タケシの友達でしょう?よくそばにいるのを見かけたわ。
 またタケシとケンカしちゃった。
 私たち、もうダメなのかな。」

そのときわかったんだ。
俺、彼女のことがすごく好きだって。

それから俺はずっと彼女をいっしょにいる。
彼女に恋して彼女と生きることを選んだ俺は天使失格だ。
天使の資格を剥奪され、ただの人間に降格だ。

でもいいんだ。
だって彼女こそ俺の天使だ。
そうこれ以上望むものなんてない。


最悪な俺に、とびっきりの天使がやってきたんだ。
− ワタル -
Copyright © 2003-2005 ユウジ/ワタル All Right Reserved.