TwinTrip
2003年07月04日
ブロウ
1年前、私は逃げた。
働くわけでもなく私の部屋に居座り続ける
疫病神のような男から逃げた。

「金は幻のようなものだ」と言いながら
私を殴りつけて幾度と無くお金を持って行った男。
本当にお金が幻である事を実践してくれた男。


そんな私も新しい彼氏が出来た。
殴ったりする事のない彼氏だ。
何よりお金を持っていた。

1年前の経験を引きずっていた私は
何よりもお金が最優先事項。
彼氏が好きなのか彼氏のお金が好きなのかが
本当にわからなくなる時もある。


いつものように彼のマンションに泊まりに来た私は
ベッドからレインボーブリッジを眺めながら

「銀行員って給料安いイメージがあったけどそんなコトないのね」

と呟いた。
ちょっと言い過ぎたかな、と思いながら彼の方へ振り返ると

「金は幻のようなものだ」

とだけ答えた。
その答えに私はゾッとした。





一ヶ月後、彼は横領の罪に問われ逮捕された。
− ユウジ -
ブロウ
「美咲ちゃん、売れっ子だからなー。今日も予約入れるの大変だったよー。
儲かってしょうがないでしょ?そんなに稼いでどうするの?」

私の胸を触りながら客が聞いてきた。こういう事を聞く客はバカだ。
どうしてプレイを楽しまないで白けさせることを言うんだろう。
どんなに稼ごうがおまえには関係ない。
まあ、実際あまりお金には執着はない。ブランド物も服も化粧品もハマったりしない。

「えっとぉ、トリマーになりたくてぇ。犬とか猫の美容師さんのことなんだけどぉ。
専門学校の入学金とか授業料を貯めてるのぉ。」
客のモノを触りつつ、感じているふりをしながら舌足らずに答えた。もちろん嘘だけど。

「へぇ、えらいんだな。でも彼氏とかいないの?彼氏、この仕事のこと嫌がらない?」

はい、こいつバカ決定。死ね。

「えー、今彼氏いないしぃー。彼氏いたらしないよぉー。 」

言いながら跪き、客のモノをクチに含む。
手とクチを動かしたら客はやっと黙った。
プレイ時間も残りわずかだ。私は手際よく客を射精に導く。
はい、一丁あがり。

そんなふうに客をさばきながら毎日が過ぎていく。
今日も全て指名客で5時から12時までで8本こなした。
手取りは6万をちょっと切るくらい。
この店に入って4ヶ月ほとんど休み無く働いて、もうすぐ400万貯まる。
そう、
もうすぐ400万貯まるはずだった。

アルファロメオのスパイダーを買うはずだった。中古だけど。
彼氏と二人で乗ろうって決めてた。もうすこしだった。

この前の月曜日、店に行く前に1週間分の給料を銀行に預金しようと
いつも給料を入れている引出しを開けると空っぽだった。
先週の給料、37万が全部無い。
別の引出しの通帳と判子を調べた。ちゃんと両方あった。
サイフを調べてみると銀行のキャッシュカードが無かった。

銀行に預けてあった400万円ちかくの金は1円も残ってなかった。
キャッシュカードの暗証番号は彼氏の誕生日。
彼氏はあれから家に帰ってきていない。携帯も繋がらない。

あのお金はどこにいったんだろう?
彼氏はドコにいったんだろう?いつ帰ってくるんだろう?

わからない。
彼氏は 彼と お金 金は わからない。 なかったのかも。そうだよ。お金なんか。最初から。
彼氏も。いなかったのかも。そんなの。知らない。 そう、まぼろし。 まぼろしのようなもの。
金は
彼氏なんて

金は幻のようなものだ
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