TwinTrip
2003年06月20日
スタンドバイミー
「12才の夏、誰も大人になんかなりたくなかった」

あの夏は妙に背が伸びた。
と言うとみんなに笑われるのだが
ホントに伸びたんだ。

ぜんそくを患っていた為に
嫌々通っていたプールをやめたのがあの夏。
たしか夏休みに入る前にやめたんだ。
それからの事だった。
みるみる身長が伸びた。

運動してる方がカラダが成長するなんて
ウソっぱちだとあの時わかった。


ついでだから言うけど
下の毛が生え始めたのも同じ時期だ。

林間学校でのお風呂が問題だった。

隣のクラスの成長株・シゲゾーは
(シゲゾーは小学生のクセに170センチあった)
下の毛を剃って林間学校に参加した。

僕はと言うと剃るか否かで悩んでいるうちに
出発の日を迎えてしまったのでそのまま参加した。

結局、風呂場ではシゲゾーの剃り跡で大騒ぎ。
誰も僕の事なんて見ちゃいなかった。

それでも多少の動揺はあったようで
自分の部屋へ帰るハズが迷ってしまった。

人の気配に振り返るとシゲゾーだった。
グッタリしている。逃げてきたのか。

「気にすんなよ。俺も生えてる。」

「ホントか?」

「あぁ」

シゲゾーと僕は家庭環境が似通っていて
同じクラスになったことがないのに仲が良かった。

酒を飲めば暴力を振るう親父と毎日戦っていた。
母親や兄弟を守る為に。

親父を見ていると大人になんかなりたくなかった。
シゲゾーもそう言っていた。

「おまぇ、背ぇ伸びたな」

「シゲゾーほどじゃねぇよ」




12歳の夏。
思いとは裏腹にカラダはどんどん成長していた夏だった。
− ユウジ -
スタンドバイミー
「12才の夏、誰も大人になんかなりたくなかった。」

もうすぐ梅雨が終わる。
あたしはもうすぐ12才になる。

ママとは仕事が忙しくてあまり会わない、パパは3年生のときに出て行った。

学校は渋谷の駅から高速道路の下を10分歩くと着く。
通学路の途中では止まった車からあたしたちの写真を撮っている男をよく見かける。
まるでまぶしいものでも見るような男の目はうっとうしい。
あたしたちのまっすぐな足や肩や髪や小さな胸に触りたくてたまらないのだろう。
でもこの男にそんな幸運は一生訪れないだろうなと
いつも胸の中で笑っている。

学校では先生や友達ともうまくやっている。
勉強もまあまあできるほう。
嫌われたり浮いたりするのは面倒だし、仲間はずれやイジメに関わることもない。
あんなのはバカのすることだ。

でもたまに先生や友達と話しているとたまらなくイヤになり、
手に持ったシャーペンを
顔や肩や胸や、とにかくめったやたらに
突き刺したくてしょうがなくなって手がぶるぶる震えてくる。
そんなときはカラダの後ろで手をぎゅっと握りしめ
ステンドグラスの模様をひとつひとつ思い出しながら
震えと刺したい思いが止まるのを待たなくちゃいけない。
やっと震えが止まって手のひらを見るといつもべったりと汗をかいている。

学校でたった一つだけ好きな場所はステンドグラスのある礼拝堂だ。
休み時間や放課後、礼拝堂の硬い木の長椅子に寝転んでステンドグラスを見上げる
この時だけ何もイヤなことを考えないですむ。
50年も前にわざわざイタリアから職人さんを連れてきて作ったという
色とりどりのきれいなガラスを通った光を浴びないと
きっとあたしはあたしでなくなる。

でも新学期になってから礼拝堂には鍵をかけるようになって勝手に出入りできなくなった。

あたしが学校に行く理由がまたひとつ無くなった。だから最近はあまり行かない。

ママはあんまり学校へ行けとかうるさいことは言わない。
学校はときどきすごくくだらないし、自立した女になるためには
こんな時期も必要よ。なんて言っていた。
そんなんじゃないのに、ってあたしは思ったけど何も言わないでおいた。

たぶんあたしはもう少ししたら
ステンドグラスの光を浴びないでも
日々をやりすごしていけるようになるだろう。
きっと震える手をぎゅっと握りしめることも減るだろう。

ステンドグラスなしで生きていけるようになるのが
大人になるってことなら
あたしは

大人になんてなりたくない。
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