TwinTrip
2003年06月06日
インソムニア
彼は冒険家だった。

日に焼けた肌。
たくましいカラダ。
意志の強そうな瞳。
自然の力と真正面から向き合って生きてきた
そんな人間だった。

僕は彼に問う。

生きて戻れないと思ったことは?

答。

否。

彼は言う。
どれだけ多くの秘境を探検しつくしても
同じ場所など決してない、と。

経験を積むと経験に頼るようになる。
その事自体は悪くない。
ただしそこから油断が生まれる。

自然は油断を許さない。
どこかの哲学者も言っていたが
大切なのは自分が無知であると知ること。

再び僕は彼に問う。

では、あなたは無知なのか?

答。

否。

彼は言う。
無知とは正確な言葉ではない。
その時点で知らないというだけで
後で必ず知るのだから。

今はまだ知らないだけの事。
言葉としてふさわしくはないが
敢えて当てるとすれば"未知"だ。


数日前にそんな話を聞かせてくれた彼が
明日また別の秘境へと旅立つ。

僕は僕に問う。

彼が戻ってこない事があるだろうか?

答。

否。

僕は僕に答える。
彼が彼自身"未知"である事を忘れなければ
必ず生きて戻って来る、と。


僕はこう言って彼を見送った。

「ミチを見失うな」
− ユウジ -
インソムニア
だからさ、
車を選ぶってことは人生を選ぶってことと同じなんだよ。
なんだよ笑うなよー。ホントだって。

だからさ、
おまえはエンジン性能とか難解なことを考える必要はないんだよ。
どーせおまえそんなこと解んないんだしな。
なんだよおこるなよ。うそうそ。うそだって。

だからさ、
おまえがこの車は素敵だなって思えるスタイルの車を選べばいいんだよ。
そうすればそのスタイルにふさわしいエンジンや
サスペンションが付いているものなんだ。

だけどさ、
その車を選び手に入れたら、全部おまえがみてやらなきゃいけないんだぞ。
ガソリンの残量やオイルの汚れに始まって
タイヤの空気圧やラジエーター液のチェックまでね。
えーっじゃねえよ。ほんとはもっとあるんだよ。
エンジンの音を聞いただけで車が何を訴えているかを
理解できるようにならなきゃだめだ。
それができるのは毎日この車と付き合うおまえ以外にいないんだから。

あとはさ、
スピードの誘惑に負けないことだな。
大丈夫じゃねえって。
おまえだってこれから先その時々で、どんな精神状態で車に乗るかわかんないんだから。

だからさ、
ホント、電気のスイッチを切るみたいに簡単なんだ。
おまえがボロボロになっているとき
車は簡単におまえをあの世に連れて行ってくれるんだから。
車はそんな道具にも簡単になるんだ。ま、なんだってそんな道具になり得るけどな。

だからさ、
道を見失うな
ってことだよ。俺の言いたいのはそれだけだよ。
そうすれば車はきっとおまえのいい友達になってくれるさ。
いや、友達っていうより恋人かな。

忘れるなよ、

道を見失うな。
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